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東京高等裁判所 平成5年(行ケ)71号 判決 1994年10月04日

東京都渋谷区幡ケ谷2丁目43番2号

原告

オリンパス光学工業株式会社

同代表者代表取締役

下山敏郎

同訴訟代理人弁理士

古川和夫

東京都千代田区霞が関3丁目4番3号

被告

特許庁長官 高島章

同指定代理人

川嵜健

中村友之

井上元廣

関口博

吉野日出夫

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第1  当事者の求めた裁判

1  原告

「特許庁が平成3年審判第20996号事件について平成5年3月8日にした審決を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決

2  被告

主文と同旨の判決

第2  請求の原因

1  特許庁における手続の経緯

原告は、名称を「カメラ」とする考案(以下「本願考案」という。)について、昭和58年3月17日、実用新案登録出願をした(昭和58年実用新案登録願第38949号)ところ、平成2年7月2日、出願公告された(平成2年実用新案出願公告第24105号)が、登録異議の申立てがあり、平成3年7月30日、拒絶査定を受けたため、審判を請求した。特許庁は、この請求を平成3年審判第20996号事件として審理した結果、平成5年3月8日、上記請求は成り立たない、とする審決をし、その審決書謄本を、平成5年4月28日、原告に送達した。

2  本願考案の要旨

「撮影レンズを通過した被写体光を測光し、この測光による測光値を撮影者による手動操作部材の操作に応じて記憶保持するレンズ交換可能なカメラにおいて、カメラ本体と、このカメラ本体に設けられ、レンズがカメラ本体から取り外される事を検知する検知部材とを備え、この検知部材の検知動作に応じて、前記測光値の記憶保持を解除することを特徴とするカメラ。」(別紙図面1参照)

3  審決の理由の要点

(1)  本願考案の要旨は、前項記載のとおりである。

(2)  昭和55年特許出願公開第17141号公報(昭和55年2月6日出願公開、以下「引用例」といい、引用例記載の発明を「引用考案」という。)には、「撮影レンズの絞り情報値を撮影者による手動操作により記憶保持するレンズ交換可能なカメラにおいて、カメラ本体と、このカメラ本体に設けられ、レンズがカメラ本体に取りつけられることを検知する検知部材とを備え、この検知部材の検知動作に応じて、前記絞り情報値の記憶保持を解除するカメラ。」が記載されている。

(3)  両考案を対比すると、両者は、「撮影レンズの情報値を撮影者による手動操作により記憶保持するレンズ交換可能なカメラにおいて、カメラ本体と、このカメラ本体に設けられた検知部材とを備え、この検知部材の検知動作に応じて、前記情報値の記憶保持を解除するカメラ。」である点で一致する。

これに対し、撮影レンズの情報値が、本願考案においては、「被写体光を測光した測光値」であるのに対し、引用考案においては、「撮影レンズの絞り情報」である点(相違点1)、情報値の記憶保持を解除する検知部材の検知動作が、本願考案においては、「レンズがカメラ本体から取り外される事を検知」しているのに対し、引用考案においては、「レンズがカメラ本体に取り付けられる事を検知」している点(相違点2)で相違する。

(4)  相違点1は、一般に、露出制御のために記憶される撮影レンズの情報値として、被写体光を測光した測光値は周知技術であり、そのような周知技術を引用考案の撮影レンズの情報値として採用し、本願考案のように構成することは、当業者がきわめて容易になし得ることであると認められる(前記周知技術に関して、昭和50年特許出願公開第50921号公報、昭和55年特許出願公開第121424号公報、昭和58年特許出願公開第33227号公報、昭和52年特許出願公開第7724号公報、昭和54年特許出願公告第9049号公報を各参照)。

相違点2は、レンズのカメラ本体への着脱を検知するに際して、レンズがカメラ本体から取り外される事を検知するか、レンズがカメラ本体に取り付けられる事を検知するかは、いずれも周知技術にすぎず、当業者が必要に応じて適宜選択し得る設計的事項にすぎないから、引用考案における情報値の記憶保持を解除する検知部材の検知動作を、周知技術のようにレンズがカメラ本体から取り外される事を検知することによって作動させるようにして、本願考案のように構成することに格別困難な点はないものと認める。また、そのような構成を採ることによって生じる作用効果も当業者が予測し得る範囲のものであって、格別のものとは認められない(前記周知技術に関して、昭和54年特許出願公開第40630号公報、昭和55年実用新案登録願第80713号(昭和57年実用新案登録出願公開第7018号公報参照)の明細書及び図面の内容を撮影したマイクロフィルム、昭和55年実用新案登録願第105935号(昭和57年実用新案登録出願公開第30733号公報参照)の明細書及び図面の内容を撮影したマイクロフィルムを各参照)。

(5)  したがって、本願考案は、引用考案及び前記各周知技術に基づいて当業者がきわめて容易に考案することができたものであるから、実用新案法3条2項により実用新案登録を受けることができない。

4  審決の取消事由

審決の認定判断のうち、審決の理由の要点(1)は認める。同(2)のうち、引用考案が「撮影レンズの絞り情報値」を記憶保持するとの点は争うが、その余は認める。引用考案が記憶保持するのは、「撮影レンズ固有の情報である最小口径絞り値と最大絞り込み段数」である。同(3)のうち、両者が「撮影レンズの情報値」を記憶保持する点で一致するとの部分は争うが、その余は認める。なお、相違点1において引用考案が記憶保持するのは、前記のように、「撮影レンズ固有の情報である最小口径絞り値と最大絞り込み段数」である。同(4)のうち、露出制御のために、被写体光の測光値を記憶すること、及び、レンズのカメラ本体への着脱を検知するに際して、レンズがカメラ本体から取り外される事を検知するか、あるいは、レンズがカメラ本体に取り付けられる事を検知するかはいずれも本出願前周知の技術的事項であることは認めるが、その余は争う。同(5)は争う。審決は引用考案の技術的理解を誤り、各相違点の判断を誤ったものであるから、違法であり、取消しを免れない。

(1)  相違点1の判断の誤り(取消事由1)

被写体光(輝度)を測光した測光値を記憶することがそれ自体周知の技術であったとしても、この測光値を採用し、これを引用考案と組み合わせることを示唆する記載は引用例には何もない。審決は、本願考案と引用考案を対比して、両者は「撮影レンズの情報値を撮影者による手動操作により記憶保持するレンズ交換可能なカメラ」である点において一致するとし、あたかも両考案を、記憶保持の対象とする情報が「撮影レンズの情報値」という共通の概念で理解することが可能であるかの如く判断し、その上で、引用考案において被写体光の測光値を採用することは前記各情報値の共通性からみて、きわめて容易であるとするかのようであるが、本願考案の被写体光の測光値と引用考案の「撮影レンズの情報値」とは全く異なる概念であるから、審決の判断は誤っている。すなわち、引用例に開示されている審決認定の「絞り情報値」とは、正確には、「撮影レンズ固有の情報である最小口径絞り値と最大絞り込み段数」であり、この値は、撮影レンズ毎の固有値であり、特定の撮影レンズをカメラに装着する際には必ずこの固有値の記憶を更新させ、また、その撮影レンズを使用している限り変更する必要がない情報である。そして、この情報は、露出制御を行うに際し、設定絞り値又は最大口径絞り値を演算するための基礎となる情報値として記憶させるものである。換言すれば、露出制御に直接関与する設定絞り値自体を記憶させるものではなく、その演算に必要な撮影レンズ毎の絞りに関する固有値のみを記憶保持の対象とするものである。

これに対し、本願考案は、「撮影レンズを通過した被写体光を測光し、この測光による測光値を撮影者による手動操作部材の操作に応じて記憶保持する」ものであり、記憶の対象は、基本的には被写体光(輝度)の測光値である。このように、本願考案において記憶保持の対象を被写体輝度の測光値とする理由は、被写体輝度は同じ撮影レンズを使用しても被写体によって変化するものであるから、撮影者の意志で特定の被写体光の測光値を記憶させるものである。

以上のように、引用考案の記憶対象は、各撮影レンズの固有情報である最小口径絞り値と最大絞り込み段数のみであり、露出制御に関して設定絞り値を演算するための間接的な要素にすぎないのであるから、露出制御の観点からみても、本願考案の記憶保持対象である被写体光の測光値と何ら関連性を有するものではない。

したがって、たとえ、被写体光の測光値を記憶することが周知であったとしても、引用考案において被写体光の測光値を採用し、これを組み合わせる理由を見いだすことはできないから、相違点1の組合せをきわめて容易であるとした審決の判断は誤っている。

(2)  相違点2の判断の誤り(取消事由2)

レンズの装着又は離脱を検知する手段がそれ自体として周知であったとしても、それらの検知手段の検知動作に応じて何を行わせるかは、自ずから別問題である。

本願考案が記憶保持の対象とする被写体光の測光値は、その性質上、撮影レンズの離脱時にその記憶を解除することに意義があるものである。すなわち、仮に、本願考案が記憶保持の対象とする前記測光値を記憶するカメラ(この測光値を記憶保持する機能をEEロックともいう。)において、引用考案のように撮影レンズの装着時にその記憶値の保持を解除する構成とした場合には、撮影者がEEロックの解除を忘れて撮影レンズを取り外すと、カメラ本体側には撮影レンズが取り外された後でも元の被写体光の測光値が記憶保持されたままとなり、被写体光の測光値に基づき撮影情報を表示する本願考案の実施例のようなカメラでは、元の被写体光の測光値に基づく撮影情報が表示されたままとなる。したがって、この撮影情報により露出を制御する恐れが生ずることになる。更にこの点について付言すると、撮影レンズの装着時に記憶した情報値の保持を解除する構成は、本願の願書に添付した図面の第18図ないし第21図に示したような撮影レンズの離脱時に記憶した情報値の保持を解除する構成と同様に、撮影レンズ側部材とカメラ本体側部材との協働作用によって記憶の解除を行うのが普通である。したがって、この方式に合わせて作った交換レンズだけを使用する場合には、交換レンズを装着したときに、被写体光の測光値の記憶保持が解除されることになり、格別の問題は生じないが、本願考案におけるレンズ交換式カメラにおいては、カメラ本体側の部材と協働して記憶した情報値を解除する部材を備えていない古い交換レンズや交換レンズ以外の中間リング、ベローズ等の各種アダプターを使用して撮影を行う場合があり、これらの場合には、カメラ本体側と協働する解除部材を有しないので、このような部材を装着しても、上記検知機構が働かないため、カメラ本体に記憶されている情報値の記憶保持を解除することはできない。この結果、既に取り外されている交換レンズによる被写体光の測光値に基づいて誤った露出制御が行われる恐れが生ずることとなるのである。これに対し、本願考案は、上記のような場合でも、撮影レンズの離脱時に被写体光の測光値の記憶保持を解除することにより、誤った露出制御が行われる恐れをなくしたものであり、引用考案からは到底予測できない効果を生ずるものである。

本願考案においては、記憶保持した被写体光の測光値を手動で解除する通常の解除機構を本来有するものであるが、これとは別に撮影者が上記の通常の解除機構による上記測光値の記憶解除を忘れたときの対策として、前述したような解除機構を設けたものである。このように、撮影者が通常の解除機構による被写体光の測光値の記憶解除を忘れたときの対策として上記測光値の記憶解除機構を設けることを示唆するものは引用例にはなく、さらに、この解除を撮影レンズの着脱で行う技術的思想も被告が援用する引用例や周知例にもないのであるから、引用考案に周知技術を適用して本願考案のように構成することが当業者においてきわめて容易になし得ることとし、その効果を予測可能であるとした審決の判断は誤りである。

第3  請求の原因に対する認否及び被告の主張

請求の原因1ないし3は認めるが、同4は争う。審決の認定判断は正当である。

1  取消事由1について

本願考案の記憶対象である「被写体光の測光値」は、通常行われている開放測光においては、被写体の輝度値BVから開放絞り値AV0、すなわち、最小口径絞り値と最大絞り込み段数からなる値を引くこと(BV-AV0)によって初めて得られる測光値である。つまり、撮影レンズ固有の情報である最小口径絞り値と最大絞り込み段数は、「被写体光の測光値」を求める上で不可欠のものであり、したがって、本願考案の「被写体光の測光値」と引用考案の最小口径絞り値と最大絞り込み段数等の情報、すなわち、「撮影レンズの絞り情報値」とは密接不可分の関係にあるものである。また、露出演算を行うAPEX方式において、露出値EV値は、このような絞り込み段数等を含むFナンバーAV又は被写体輝度BVのいずれの一方を基にしても求め得るという意味において等価なものといえるのである。このようなことから、両者は露出制御をする上で撮影レンズと係わりのある情報、すなわち、露出制御のための撮影レンズの情報であることは明らかである。

そうすると、審決が挙げた周知技術からも明らかなように、カメラの露出制御において被写体光を測光した測光値を記憶するように構成することは周知のことであるから、引用考案の記憶対象である撮影レンズの情報として、引用考案と露出制御の上で関係のある上記の周知の測光情報を記憶保持するようにし、本願考案のように構成する程度のことは、当業者がきわめて容易に想到し得るものにすぎない。したがって、審決の相違点1の判断に誤りはない。

2  取消事由2について

「被写体光を測光した」測光値は、本来撮影すべき被写体ごとに異なるものであり、また、シャッターレリーズがなされれば不要となるものであるが、シャッターレリーズの後においても測光値を記憶させておく必要のある本願考案のようなカメラにおいては、シャッターレリーズとは別の機構により、その記憶を解除させる必要があるため、周知例で示されているような電源スイッチの開放等の記憶解除機構が設けられているのであり、本願考案は、引用考案が記憶の解除を撮影レンズの装着で行っているのに対して、その離脱によって行うようにしただけのものである。つまり、本願考案と引用考案との差異は、撮影レンズの装着と離脱という意味において差異があるものの、その着脱によって行わせようとする技術的思想において差異はないものである。そして、カメラにおいて撮影レンズの装着と離脱、すなわち、着脱を検知する手段は、きわめてありふれた技術であることからすると、本願考案は引用考案から当業者がきわめて容易に考案することができたものであり、本願考案の構成による効果も引用考案から予測できる程度のものである。

第4  証拠

証拠関係は書証目録記載のとおりである。

理由

1  請求の原因1ないし3は当事者間に争いがない。

2  本願考案の概要

いずれも成立に争いのない甲第2号証(本願考案の実用新案出願公告公報)及び同第3号証(平成3年6月14日付け手続補正書)によれば、本願考案の概要は以下のとおりであると認められる。

本願考案は、被写体光(輝度)の測光値を記憶できるカメラに関するものである(1欄10行ないし12行)。被写体光の測光値を記憶するカメラでは、開放口径値の異なる交換レンズを使用した場合、交換レンズを通ってくる光量自体が異なるため、一度、被写体光の測光値を記憶した後、開放口径の異なるレンズに交換した場合、露出が狂うという問題点がある(2欄14行ないし3欄7行)。本願考案は、レンズ交換の都度、必ず記憶された被写体光の測光値が解除されるようにして、上記の問題点の解決を図ることを目的とし(3欄8行ないし11行)、実用新案登録請求の範囲記載の構成を採択したものであり、この構成によってレンズ開放口径値の差に基づく露出誤差を確実に防止できるという作用効果を奏するものである(30欄33行ないし37行)。

3  取消事由について

原告は、相違点1の判断を争う前提として、本願考案と引用考案は共に「撮影レンズの情報値」を記憶保持する点において一致するとした審決の認定を争うので、最初に、この点を検討する。

本願考案が記憶保持する対象が「被写体光の測光値」であり、引用考案のそれが、「撮影レンズ固有の情報である最小口径絞り値と最大絞り込み段数」であることは当事者間に争いがなく、これによれば、両考案が記憶保持する情報内容自体が異なることは明らかなところである。ところで、当事者間に争いのない前記審決の理由の要点から明らかなように、審決は、両考案間の相違点1として、記憶保持の対象とする情報が、本願考案においては「被写体光を測光した測光値」であるのに対し、引用考案は「撮影レンズの絞り情報」である点を挙げていることからみて、前記の一致点として摘示した「撮影レンズの情報値」が上記の各情報内容自体を意味するものでないことは明らかである。ところで、いずれも成立に争いのない乙第1号証(昭和52年9月2日東洋経済新報社発行、辻内順平編著「カメラの実際知識」第2版)、同第2号証(昭和53年6月15日株式会社写真工業出版社発行、辻徹直編集「国産カメラメカニズム便覧」1978年版)及び同第3号証(昭和55年特許出願公告第38648号公報)によれば、撮影レンズを通して測光するいわゆるTTL方式のカメラ(本願考案のカメラもこの方式であることは、その実用新案登録請求の範囲の記載から明らかである。)において、露出制御は、フィルム感度、被写体の明るさ(輝度)、シャッター速度(露出時間)及びレンズの絞りの各要素によって決定されることが認められるところ、引用考案の記憶保持する「撮影レンズ固有の情報である最小口径絞り値と最大絞り込み段数」が上記のレンズの絞りに関する情報であることは原告においても争わないところである。そうすると、両考案が記憶保持の対象とする前記各情報は、いずれも露出制御に関連性を有する情報である点において一致するものということができるから、審決が前記のとおり前記各情報内容自体の違い(原告が強調する両者の違いは正に両考案が記憶保持の対象とする情報の内容における相違であることはその主張自体から明らかなところである。)を相違点として摘示していることからすると、審決のいう「撮影レンズの情報値」なる表現が当業者間における理解の確立した技術用語といえるかについては必ずしも疑問がないわけではないが、前記のように両考案の記憶保持の対象である前記各情報値は、共に露出制御に関連する情報であるという限度で共通性を有することが明らかである以上、この点を一致点とした審決の認定を誤りということはできない。

(1)  取消事由1について

被写体光(輝度)の測光値を記憶保持すること(EEロック機能)自体が周知であることは原告の自認するところであるが、原告は、引用考案とEEロック機構の組合せを示唆するものはなく、この組合せをきわめて容易であるとした審決の判断は誤りであると主張するので、以下、検討する。

確かに、引用例にEEロック機構の採用を示唆する記載がないことは原告の主張するとおりである。しかし、EEロック機構自体が周知であり、しかも、被写体光の測光値と引用考案1の「撮影レンズ固有の情報である最小口径絞り値と最大絞り込み殻数」とは、両者の情報内容自体が異なるとしても、前記認定のとおり、共に適正な露出制御を行う上で必要な情報であって、何ら互いに排斥し合う両立し得ない関係にはないのであるから、引用考案において、被写体光の測光値を記憶保持する周知の技術を適宜必要に応じて採用する程度のことは、きわめて容易な技術的事項であるというべきであり、本件全証拠を検討しても、特にこれを困難とする事情を見いだすことはできない。

したがって、相違点1について本願考案のように構成することは当業者がきわめて容易になし得るとした審決の判断に誤りはないから、取消事由1は採用できない。

(2)  取消事由2について

レンズのカメラ本体への着脱を検知するに際して、レンズがカメラ本体から取り外される事を検知するか、あるいは、レンズがカメラ本体に取り付けられる事を検知するかは、いずれも本出願前周知であることは原告の認めるところである。ところで、本願考案が記憶保持の対象とする被写体光(輝度)の測光値は、個々の被写体毎の情報値であるから、本来、当該被写体の撮影の終了とともに不要となる性質の情報であることは、その情報内容自体から明らかなところである。してみると、一旦、記憶保持した被写体光の測光値の解除忘れを防止しなければならないとの課題を認識した場合(このような課題の認識それ自体も、被写体光の測光値の上記のような性質に照らして特に困難なものとは認め難い。)に、前記の周知の検知技術を適用するに当たり、レンズの取外しを検知する事により、記憶保持を解除する構成を採用することは、被写体光の測光値という情報の前記のような性質上、当然のことといわなければならない。原告は、この点について、引用考案のように、レンズの装着時に記憶保持を解除する構成を採用した場合には、EEロックの解除忘れを完全に防止することは困難であると主張するが、撮影レンズの着脱を検知し、これに連動して記憶保持を解除する前記の周知の手段を適用するに際して、その装着ないし離脱のいずれを検知した方がより適当であるかは、記憶保持する情報の性質を適宜考慮してそのいずれかの採用を決定すれば足りる程度の事項であることは、前記の検知に関する各周知技術自体の目的から容易に決定できる事柄であり、本願考案が記憶保持の対象とする被写体光の測光値の場合、前記のように、基本的には当該被写体の撮影の終了とともに不要となる性質の情報であることに照らすと、レンズの離脱を検知するように構成することは極めて自然のことであり、これを着想困難とすることはできない。

原告は、引用考案のようにレンズ装着時に記憶を解除する構成では、殊にカメラ本体と協働関係にない部材である場合には解除忘れの防止上、不十分であると主張するが、審決の判断が、装着時に記憶保持を解除する引用考案の構成をそのまま本願考案に採用すれば足りるとするものでないことは前記審決の理由の要点から明らかであるから、原告の上記主張はその前提を誤るものであって、採用できない。

そして、原告は、相違点2に係る構成により本願考案が奏する作用効果は当業者といえども予測できないと主張するが、前記のようにレンズの離脱時に記憶保持を解除する構成の採用自体が格別のものではない以上、それによってもたらされる作用効果についても当業者が当然に予測可能なものであって、これを特別のものとすることはできないから、この点に関する原告主張も採用できない。

(3)  以上の次第であるから、取消事由はいずれも理由がなく、審決に原告主張の違法はない。

4  よって、本訴請求は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 竹田稔 裁判官 関野杜滋子 裁判官 田中信義)

別紙図面1

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